イームズ ・ハウスと「パワーズ・オブ・テン」に観るチャールズイームズの世界感

  • ケースススタディハウス#8

イームズ・ハウスはケース・スタディ・ハウス#8として1949年にチャールズ&レイ・イームズの自邸として建てられたものだ。チャールズと朋友エーロ・サーリネンの共同設計だ。

ケース・スタディ・ハウスとは、雑誌「アーツ&アーキテクチャー」を主宰するジョン・エンテンザが企画して、資材メーカーなどとタイアップしながらクライアントと建築家を結びつけ、戦後の新たな時代にふさわしい住宅像を実物の建築の形で提示するという実験的なプログラムだった。1945年から1966年の間に36のプロジェクトが企画され、そのうち25棟が建築されている。チャールズは同誌の編集委員のひとりであり、レイはアドヴァイザーとして表紙デザインなどを手掛けていた(Arts&Architectureのwebサイトのケース・スタディ・ハウスのアーカイブ記事はこちら)。

case studyhouse #8

Photo Courtesy : inhabitat

イームズ・ハウスは以下のような点でケース・スタディ・ハウスのなかでも例外的な建物だった。

  • 平屋の専用住宅ではなくスタジオを併設した2階建ての建物であること。
  • ほかのケース・スタディ・ハウスが航空資材メーカーなどに特注で作らせたオリジナル部材を使っているのに対して、イームズ・ハウスはチャールズが「オン・ザ・シェルフ」と呼んだ既製品の部材を使って作られていること。

case study house のインテリア写真

Photo Courtesy : inhabitat

ケース・スタディ・ハウスの多くが、海や開けた眺望に向いた大きなガラス開口を売り物にした、いかにもカリフォルニア的な建築であるなか、イームズ・ハウスはせっかくの海へ眺望を犠牲にしてまで、斜面に半分に埋まっているかのように丘の地形に寄り添って建てられていること。

隣りに建てられた、同じ設計者によるケース・スタディ・ハウス#9(ジョン・エンテンザのための家)が、大きなガラス開口を素直に海に向けて建てられているのとは対照的だ。

イームズ・ハウスの当初の案は、エンテンザ邸と同様に、海の方角を向いた長く大きなガラス開口を有した直方体の建物が、斜面からカンチレバーで宙に持ち上げられたプランだった。(『イームズ・ハウス/チャールズ・イームズ&レイ・イームズ』 岸和郎 2008)

チャールズは1947年にMOMAで開催されたミース・ファン・デル・ローエの展示会に、同じようなカンチレバーによるスケッチが出品されていたのを見てプランを変更したといわれている。

建築とは「世界」を構築する行為である。周囲に屹立する独自の存在を作り上げることにしのぎを削るのが建築という行為だ。コルビュジエやミースの建築を思い浮かべればわかりやすいだろう。ミースのスケッチに似たイームズの当初案はまさにそうしたイメージだ。

しかしながら実際、出来上がったイームズ・ハウスは全く違っていた。丘に寄り添い、大地に張り付き、木々に囲まれ、周りの木々のシルエットを映し、量産の工業製品を組み合わせた、一見、そっけない印象の倉庫のような存在だ。

イームズ・ハウスは「世界」を構築する存在ではなく、むしろ「世界」のなかにある存在であることを強く印象づける。

  •  パワーズ・オブ・テンの世界

「世界」のなかの存在というキーワードは、イームズ・ハウスから28年後のイームズによる映像作品「パワーズ・オブ・テン」YouTubeはこちら)を思い起こさせる。

「パワーズ・オブ・テン」(10のべき乗という意味)は、ミシンガン湖のほとりの芝生で寝転がっている男女を10の0乗(1メートル四方)の距離から俯瞰した画像から始まって、カメラが空中に引きながら10の24乗という太陽系をはるかに超えた宇宙の視点まで上り詰め、そこから逆にカメラが急下降し、最後は寝転がる男の体内に入り込むように10の-16乗という陽子や中性子の超ミクロの視点にいたるプロセスを9分間のワンシーンで見せてくれる映像だ。

「パワーズ・オブ・テン」は、存在は「世界」のなかにあると同時に「世界」は存在のなかにあることを直感的に理解させてくれる。

poewrs of ten

  • それはイームズ・ハウスのコンセプトそのものではないのか?

イームズ・ハウスのリビングの奥に設えられた、居心地の良さそうなアルコーブ状のソファー・コーナーやふたりが世界から集めたオブジェを飾ったシェルフは、まぐれもなく建築のなかに現れたひとつの「世界」だ。

チャールズ・イームズはイームズ・ハウス以降、建築の分野から離れ、映像やコミュニケーションのデザインにシフトしてゆく。

チャールズは1967年、かかわりのあったイマキュレート・ハート女子学院の移転にともなう新校舎の設計コンペの趣意書でこう述べている。

「彼女たちの移転先が、軍隊が撤退したあとの兵舎や、打ち捨てられた修道院や、古くて巨大な幾棟かの倉庫であれば良いのにと願わざるをえません」(『イームズ入門』 イームズ・デミトリオス 2004)

チャールズ・イームズのイメージする建築の理想を語ったような言葉だ。それは「世界」を構築する建築という行為が不可避的に持つ、ある意味、超越的で独善的は響きとは大きくかけはなれている。

 

text by 大村哲弥

Arts&Architectureのwebサイトのケース・スタディ・ハウスのアーカイブ記事:

http://www.artsandarchitecture.com/case.houses/houses.html

*パーワーズ・オブ・テン You Tube:

https://www.youtube.com/watch?v=0fKBhvDjuy0

 

 

(ケーススタディハウスその代表はピエール・コーニッグによる#22だろう。ジュリアス・シュルマンが撮影した、ロサンゼルスの市街を望む、中に浮いたようなコーナーガラスのリビングルームの写真で有名)

Casestudyhouse #22

Photo Courtesy : North Carolina Modernist Houses

(上記写真はジュリアスシュルマン Julius Shulman の撮影した写真ではない)

 

 

 

 

 

 

 

 

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