ニューヨークの伝説の高級レストラン、シーグラムビルにあるザ・ フォーシーズンズ The Four Seasons が2016年7月16日で閉鎖し、パークアヴェニューの新たな場所に移転することが報じられた。ひとつの時代の終わりを象徴する出来事として、多数のニューヨーカーから惜しむ声が上がった。
シーグラムビルはミース・ファン・デル・ローエが設計したニューヨークで唯一の建物だ(1959年竣工)。
(*source:
http://www.archaic-mag.com/classics-seagram-building-mies-van-der-rohe-philip-johnson/)
ミース・ファン・デル・ローエの起用を推薦したのが、フィリス・ランバート(旧姓フィリス・ブロンフマン)。初代シーグラム社社長であったユダヤ人の大立者フィリップ・ブロンフマンの娘であり、イェール大学で建築を学んだ人物だ。
フィリスから建築家の選定段階で相談を受けていた、当時MOMAの建築部門責任者に返り咲いていたフィリップ・ジョンソンが共同で設計することになる。フィリップ・ジョンソンはミースをアメリカに紹介した人物でもあり、旧知の仲だ。
(*Phyllis Lambert and Mies van der Rohe with a model of the Seagram Building, source:
https://www.knoll.com/knollnewsdetail/remembering-the-four-seasons)
(*Mies van der Rohe and philip Jhonson with a model of the Seagram Building, source:
http://mostlymies.tumblr.com/post/47990066977)
ザ・ フォーシーズンズ の内装はフィリップ・ジョンソン自らが手がけた。高い天井の空間をフレンチ・ウォールナットのウッドパネルで被い、窓にはビーズの優雅なカーテンをかけ、大理石やトラバーチンやブロンズが惜しみなく使われた。費用は現在の貨幣価値で4,000万ドル(40億円超!)と言われている。
天井から吊るされたリチャード・リッポルドのブロンズを使ったアートがひときわ目をひくザ・バー、段差を巧みに利用してコージーな居心地を作ったザ・グリル・ルーム、中央に置かれた水盤と大きなツリーによる開放感あふれるザ・プール・ルームなど、フロアーは、それぞれ異なった雰囲気と魅力を持った空間として作り込まれていた。
(*The Bar at The Four Seasons source:
https://jp.pinterest.com/pin/131659989079653787/)
(*The Grill Room at The Four Seasons 2015 ,source:
http://www.grubstreet.com/2015/12/the-end-of-the-four-seasons.html)
(*The Pool Room at The Four Seasons 1959, source:
https://www.knoll.com/knollnewsdetail/remembering-the-four-seasons)
ミースのブルノ・チェア、ハンス・J・ウェグナーのザ・チェア、エーロ・サーリネンのチューリップ・チェア、ノールオリジナルのバー・スツール、そしてフィリップ・ジョンソン自らがデザインしたオリジナルの造り付け家具など、取り揃えられたモダニズム家具も垂涎ものだ。
モダニズム建築のマイスターとアメリカ建築界のドンという二人の巨匠の手になるザ・フォーシーズンズは、モダニズムが最も輝いていた時代を象徴する高級レストランとして数々の伝説で彩られている。
パワー・ランチという言葉はここザ・ フォーシズンズ で生まれた。J.F.ケネディ大統領が45回目の誕生日をザ・グリル・ルームで祝い、ジャクリーン・ケネディはここを「大聖堂」と呼んだ。ヘンリー・キッシンジャーは「ザ・フォーシーズンズはレストランではなく、ひとつのinstitution (社会的な組織、施設、機関の意)だ」と評し、セレブリティたちがバレーのような足取りでバー・ホッピングに勤み、いつもの席でフォアグラとネグローニのランチを楽しむ御大フィリップ・ジョンソンの姿がしばしば目にされた。
最高のモダニズム建築に最高のモダンアートを合わせるべくフィリップ・ジョンソンが、ザ・フォーシーズンズのための壁画作製のアーティストとして白羽の矢をあてたのがマーク・ロスコだった。
(*Mark Rothko, source:
https://tophomexxx.com/2015/03/12/mark-rothko/)
マーク・ロスコは約30点(40点ともいわれている)の大型の絵画を完成させた。後にシーグラム壁画(Seagram Murals)と呼ばれる連作だ。
しかしながら、それらの作品はザ・ フォーシーズンズ を飾ることはなかった。
理由は、完成間際のレストランを見たマーク・ロスコが契約を一方的に破棄して、受け取り金を返し、作品を引き渡すことを拒否したからだ。ロスコは、その勿体ぶったインテリアが自らの作品を展示するにはふさわしくないと考え、契約を破棄したと言われている。「食事に5ドル以上もかかるなんて犯罪だ」と激怒したとも言われている。
一方、マーク・ロスコは事前に壁画作製の真意を「高級レストランで食事をするようなクズども全員の食欲を台無しにする代物を描く」のだと漏らしていた。
そんな確信犯のロスコが、いかにも高級そうな金がかかった空間という、予想しえたはずの現実に直面して何故、態度を豹変させたのか。
<後編>に続く
*参考文献等:
Willam Grimes,Four Seasons, Lunch Spot for Manhattan’s Prime Movers, Moves On,Available at
Holly Peterson,A Brief History of the Most Important Restaurant In New York, Available at
<http://www.townandcountrymag.com/society/money-and-power/a5671/four-seasons-restaurant-history/ >
The End of The Fourseasons, Available at
<http://www.grubstreet.com/2015/12/the-end-of-the-four-seasons.html>
Remembering The Four Seasons,Available at
< https://www.knoll.com/knollnewsdetail/remembering-the-four-seasons >
Mark Rothko,Wikipedia,Available at
<https://en.wikipedia.org/wiki/Mark_Rothko>
Dan Howarth,Critics slam “painful” auction of items from Philip Johnson’s The Four Seasons restaurant,Available at
以上
Text by 大村哲弥