2013年1月アメリカラスベガスに於いて開催されたCES(コンシューマーエレクトロニクスショー)では、インターネットによる業界と市場の変化が起き始めていました。

Micro Brewed Brandsの台頭

Micro Brewingとはビールやワインをローカルの小さな醸造所(Micro Brewery)で作る事、又は地ビールや地酒の事。大手による薄いビールに嫌気の刺した消費者が求めた、より濃厚で、新鮮なオリジナリティー溢れるビールやワインで80、90年代に人気となった。今回のCESでは電気の世界にもマイクロブルワリーの世界感、(濃厚で、新鮮、オリジナリティー溢れる)が広がったと感じさせられた。

マイクロブリュードブランド達はメガブランドに代わってオリジナリティー溢れる、魅力的な提案、ブランドコンセプトを提示している。そしてその多くは小さくて、創業したばかりのスタートアップブランドだ。彼らの提案は新鮮で、絞り込まれたユーザーニーズに焦点を当てており、大手メーカーが出来なかった提案だ。その名前は今迄あまり聞いた事は無いが、覚えやすいネーミングで、ブランドの新しい提案はシンプルであるが故に力強く、積極的なイメージに感じられた。マイクロブリュードブランドが提供するサービスの多くはiPhoneやAndroidの携帯端末のアプリと連携するハードを使ったサービスである。今回目に付いたそんなブランドを以下にいくつか紹介する。

Parrot

Parrot はもうスタートアップとは言えず、メジャーなブランドと言えるかもしれないが、まだ新興勢力の感が有る。今回のCESでも新興勢力らしくアグレッシブな展示を行っていた。知る限りここ数年はiPhone用スピーカーやヘッドフォン等のオーディオ関連製品を作っていたのだが、昨年はiPhoneで操作可能な小型のドローン(無人ラジコンヘリ)を発表し、新しい世界に参入している。今年のCESでは音楽に合わせて複数のドローンが編隊を組んで踊る“空中チームダンス”をデモしていた。会場入り口の屋外の広場と会場内のParrotブースで見せた、大音響をバックにダンスするドローン編隊の注目度は高く、ParrotブランドのアグレッシブでFunなイメージ作りに大きく貢献していた。

Lapka

スマートフォンと連携し、大気の湿度や放射能、土壌の化学薬品濃度を検査する事が出来るセンサー群のアクセサリとアプリ。より正確に信頼のおける自身の手で、食品の汚染レベルや大気の状態を調べる事が出来るサービス。センサーデバイスの外装には木を使っていてとてもオーガニックな印象で、エコロジーコンシャスなブランドイメージをそのまま製品が体現している。ブランドと製品デザインのベクトルがしっかり合致し、そのブランドメッセージがしっかり伝わってくるのは、スタート間もない企業で組織がまだ小さければ自然とそうなるのだろう。

FitBit

これもスマートフォントを使い、アプリとそれに連携する携帯用の小さなハードを提供するサービス。デバイスを持って生活する事でジョギングやエクササイズで運動量を計測し、見やすいインフォグラフィックをアプリ上に表示する。

日々の運動量だけでなく睡眠料も計測し、アプリとハードウェアの連携サービス。食べた食事の情報をアプリに入力すれば日々の食事からの摂取カロリーも計算できるので、カロリーのインプット分とアウトプット分を比較したりして、個人の生活パターンの情報から総合的に健康な生活を助ける。現在は保険サービスとの組み合わせ等の展開は発表されていない模様。

GoPro

これももうエクストリームスポーツ愛好家の間では確立されたブランドだが、ゴープロはシンプルな小型ビデオカメラ。日本のソニーやキャノンのビデオに比べて技術的に優れた所はさほど見当たらないが、特徴はカメラを設置する為のアクセサリが豊富な事。これは撮影者の体や乗り物にカメラを固定する目的で、固定されたカメラが、自分のアウトドアスポーツシーンでのかっこいい姿を撮影する。ビデオカメラの使い方が運動会での子供のかけっこの撮影ではなく、自分が空中をジャンプしている姿を撮影するのだ。

製品ラインのモデル名称がHEROというのもこのカメラを通して画面上で自分がヒーローになれる体験という意味を含んでいる。GOPROのHEROは自分がHEROになれる経験、日常の自分でない、より良い自分をカメラというハードを通して売っている。さらに言うならユーザー(スポーツマン)はこのカメラでbetterになれるのだ。どんな一般的な消費者もプロやbetter player/personになりたく、憧れている。GOPROはそんな夢を映像の世界の中で実現させてくれる。

 

技術的にはどれも既存の技術の応用で、4K2Kのテレビのように巨大な技術や生産設備への投資が必要とは考えられない。けれど、既存のインフラを使ってユーザーのニーズに寄り添ったサービスの提供に成功している。

これらのブランドは大企業ではうまく出来ないエッジの聞いたブランドイメージの創出と、トータルサービスのパッケージ化を小さな組織で実現している。

こんな事が可能になったその理由は、中国でのEMS生産のインフラが十分整ってきているのも一因かと考える。大規模な技術開発やライン設備のへの巨額投資をそれぞれの“メーカー”が行わなくても、深圳や台湾での受託生産を行うサービスが充実してきたおかげで、その生産設備利用ししてデバイスそれにまつわるアクセサリ等のハードの生産が比較的簡単に行えるようになったのだ。

又、アップルやグーグルが準備したプラットフォーム、もしくはオープンソースとなっているソフトを利用しサービスを提供する事で、初期のソフト開発の投資は少なくなっている。

これらのハード、ソフトともにオープンな製作環境が整った要因から小規模の新事業者が新しいサービスを提供し易い環境が整ってきており、CESでは様々な事業の提案が花開いてきている。

 

メガブランド

日本の電機メーカーに元気が無いと言われて久しいが、私が得た印象は今回のCESでも、残念ながらこの状況に変化はあまり感じられなかった。

それでは、日本以外のメーカー韓国、中国のメーカーには新提案や魅力的な展示が有ったのか、というとそうも感じなかった。(この展示会では具体的な価格の提示が無いからという事かもしれない)

日本の電機メーカーが行っていた展示は主にディスプレイとその解像度、クオリティーのアピールの印象で、CESの技術展示部門と言った印象であった。技術展示としては各社4K2KのTVやOLEDTVは美しく、今後これらの技術が広がって行く事が想像される。

 

ブランドの再利用/ファッション化

Marshall headphonesはマーシャルアンプが持つ“楽器”としてのブランドイメージ、ロックイメージを踏襲した素晴らしい展開だった。ハードコアロックエンスージアストであるローディー(バンドの機材係)をヒーロー化して音楽とのつながりや音楽シーンをサポートする姿勢を明確にし、ミュージックシーンとのつながりをイメージさせている。

Onkyo-Gibsonは両者の資本提携後初の本格的な展示を行っていた。CES会場前の巨大な屋外テントを専用テントとしてギターから始まり、新製品のヘッドフォンやオーディオ製品を展示していた。

どちらのブランドもロックミュージック、音楽業界では最高峰のブランドでこれが電機業界に入り込み電気製品に拡販に大いに役に立っている。ブランドとしては音楽を聞く道具(オーディオ機器)は楽器なのである。

既に電機業界と音楽業界は別であるという思い込みはとっくにユーザー視点からさらわれどちらも音つながりという事でイメージアップに貢献している。

 

New Technology Oculus Rift

AR(Augmented Reality拡張現実)のテクノロジーの進化は凄まじい。昨年はGoogleGlassesがスマートフォンの機能をすべて眼鏡に集約させて話題を呼んだ。今回の公開されたOculus Riftは、(実際には体験できなかったが)その評判は著しく良い。これはゲーム用のヘッドセットで、見た目はスキーゴーグルのレンズ部分を黒いテープで覆ったような形をしている。ゴーグルの中には2枚の小型LCDと加速時計やジャイロスコープのセーサー類が入っていて、頭の動きに反応し、左右それぞれの目に向けて2枚のLCD上に画像を表示する。左右それぞれのLCDは独立して別の画像を送るため3Dとして表示される。その動きはスムーズでとてもリアルそうだ。もしかすると5年後のゲームはこういったヘッドセットをしてするのが当たり前になるのかも知れない。

Oculus Riftも2012年創業のスタートアップ企業で、キックスタータープロジェクトで開発資金を得た。プロジェクトでは最初の36時間で$1Millionを集め、最終的な締め切りまでには$2.5Millionの資金を集めた。

 

CES has gone indie

“CESはインディーに”と題したメディアが有ったが、よく言い当てている。CESの意味が代わってきたのだ。

以前からCESでは、小さなオーディオメーカーから巨大なグローバル企業まで色々なメーカーが参加してきたのではあろうが、今年の話題を提供する企業は小さな創業間もない新興企業だ。それはソフト開発のオープンソース化であったり、インターネットによるロングテール化であったり、キックスターターや投資事業の活発化の結果ではないかないだろうか。

今回のCESでキックスターターと連動させて、CESの開幕直前にキックスターターをスタートさせるグループが何社か有ったようだ。オンライン上のプロジェクトをリアルの現場で見る事が出来るというが今後のCESや展示会の意義となって行くのかと感じた。

自動車の世界ではイギリスのバックヤードビルダーが有り、コンピューターの世界ではHPがガレージで創業した。アメリカやイギリスにはDIY文化があり、それが元になって生みされた企業やビジネスがあった。

コンピューターやインターネットの世界にはDIY文化を背景にした起業の元気が既に広がった。

今迄は比較的保守的で、アジアの企業に占領されていた、電気機器、ハードウェアの世界にもそのネットの元気が、ネットがインフラになった事で及んできている。

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